絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

全部 嫌

 月曜日の朝、土日の疲れが出るのは仕方ない。それでも、どうにか流れに乗れそうな気がした、午後3時。良い調子だったので休憩に行くのが少し惜しかったが、トイレに行きたかったので仕方なくトランシーバーで挨拶を飛ばしてからスタッフルームに入る。
 まだ昼食中の者もいるなか、なんとなくジュースを買って、宮下の隣に座った。
「お疲れ様です」
「お疲れ」
 宮下の今日の日替わり弁当は、和食でちょっと美味しそうだ。
「……」
「何?」
「あ、いえ、別に……」
 しまった、何か用を考えておくべきだったかな、と頭をフルに回転させながら、ジュースにストローを刺す。
「小野寺、どう?」
「え、あぁ……私、あまりシフト合わないので……」
「そう?」
 ただ話を聞こうという香月とは逆に、宮下はというと、とっさに思い出した小野寺の話題に、自分でも少し動揺していた。
「はい。……玉越さんが指導をしているような……」
「いや、そうでもないよ」
「ですよね……」
「何で?」
「いや、前回の返品の件でちょっとお怒りでしたから」
「あぁ……。焦ったからな」
「玉越さんが、久しぶりに怖い顔見たって言ってました」
「俺?」
「はい」
「そうかなぁ……」
「松岡副店長が、昔はもっと怖かったって」
「あぁ……今よりはな。もっと厳しかったと思うよ。それだけ年をとったってことじゃないかな」
「今は丸くなったって言ってました」
「そうだなぁ。よく、そう言われる」
「確かに……、昔、監査で来た時なんか、怖かったです」
「そう?」
「はい」
「あの時は……わりともうゆるくなってたと思うけどな。香月が入ってからくらいは、もう充分ゆるかったと思うよ」
「そうなんですか」
「玉越なんかは、ここ10年近く見てるからな」
「あ、そっか」
「うん」
「そっか……あ、それで……いえあの、別にそのとこで話がしたかったとかそういうわけではなくて、今思い出したから言うだけなんですけど」
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