絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

離婚

「でぇ♪」
「……はい」
「あの後どうなりましたー?????」
「うーん……」
 香月は考えるふりをして空を仰いだ。そこには、眩い照明があるだけ。
「あの人格好良かったですよね、超大人―ってかんじで!! 香月先輩とお似合いだって皆言ってましたよ?」
「うーん……」
「うーんってどうなんですか!?」
「悩むところ」
「うーん……」
 今度は佐伯が悩んでしまう。午後のコーヒーを取りながら、若い2人はガーデンカフェのテーブルでこそこそ悩んでいた。
 話を元に戻そう。先週、一体何がどうなったのかというと、思い出すだけでちょっと嫌になってはくる。
「香月先輩、お願いだから一緒に行ってください!!」
 という佐伯のどうでもいい懇願から全ては始まった。
「かわいい子一人連れてきてって言われたんです!」
「座ってるだけでいいですから!」
「食事代は私が持ちます!」
「もしかしたらいい人がいるかもしれませんよ!」
 と散々口説かれた末の無料合コン参加であった。普段ならこんな会絶対に参加しないのだが、本社勤務で佐伯の顔もなかなか見られないという寂しい背景がどうしても胸にあったため、まあ、もしかしたらもうこんな佐伯のお願いを聞くこともないかもしれないし……としばらく考えて了解したのであった。
 合コン自体は今まで誘われたことは何度かある。だが、普通に考えて、レイジ以上に外見を手入れしてある人がその辺にいるとそれほど思えなかったし、ましてや、外見がすべてではないし。恋人がほしいとそれほど思っているわけではないし、知らない人と大勢で飲みたい気分でもないし……。
 しかし、佐伯の喜びようときたらなかったので、まあ、これが最後だと思って参加したのである。
 普段合コンに行かないといえど、集合場所はどこかの居酒屋かバーだとばかり思っていたので、メンバーのうちの自宅だと聞いたときは少し驚いた。そんな狭い所に10人も入っても学生の飲み会の雰囲気になるだろうと。イメージでは勝手に、1LDKになっていたのだが、実際にマンション名を聞いて驚いた。
 新国際マンション。確か、去年建設されたばかりの超有名高級マンションだ。
 男性陣は全員が有名企業に勤め。パイロットから始まり、大手企業企画部部長、医療営業部部長……医者こそいなかったが、佐伯が「レベルが高い」と評価していたのはこの部分にあたると思われる。
 何がどうで、佐伯がこの合コンに参加し、更に香月を誘ってきたのかは不明だが、とにかく、佐伯にとっても逃せない会になっていることだけは間違いなさそうだった。
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