絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「そういえば」
 遠くにいる西野を見た瞬間、思い出す。
「この前、コンビニで女の人と親し気に話してたって噂で聞きましたけど。恋人なんですか?」
 これくらいいいだろうと、にやけて質問を投げかけてみる。
 だが、宮下は冷静であった。
「ただの知り合い。結婚してる人だよ」
「あ、そうなんですか……」
「西野だろ」
 宮下はこちらを鋭く勘ぐる。
「え、まあ。けど宮下店長、他に彼女とかいるんですか?」
 西野が怒られてはまずいと、気分を変えるために、違う話題をふった。
「……」
 えらく黙り込む。まさか、この店内にいるとか言わないだろうな……。宮下に限ってそんなまさか。
「……、好きなひとはいるよ」
 ようやく開いた言葉がそれであった。
「す……」
 そこで別の社員が宮下に話しかけてくる。
 よかった、実は少し言葉に詰まっていた。
 好きな人……。わざわざ考えてまで言った理由は何だったのだろう。
 少し、信用してくれている、ということなのだろうか。

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