優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成が寝所に入ると部屋のものすごく隅に布団が敷かれ、桃が真ん丸になって眠っていた。


…いや、 寝息が聞こえないので息を潜めて様子を窺っているのがわかる。


――八つ当たりをして、あまつさえ泣かせてしまった罪悪感が心を苛み、かける言葉が見つからずにそのまま中央に敷かれていた布団に横になった。


虫の鳴き声が庭から聞こえ、桃の気配を奪ってゆく。


上杉謙信…

滲み出る自信とおおらかな心を併せ持つ軍神。


その気さえあれば天下に一番近い所に居る男…


だが負けてはいられない。


「…桃」


…返事はない。
それも予想済みだったので先を続ける。


「そなたの寝ているすぐ隣の部屋に俺の甲冑がある。大山が以前夜な夜なその甲冑が動くと…」


「うそっ、やだやだやだ!!」


敷布団にもつれながら桃が縋り付いてきて、三成はあっけらかんと告白した。


「嘘だ」


「え!」


肩から離れようとした小さな手にそっと手を重ね、暗闇の中で見つめ合った。


「すまぬ、泣かせるつもりではなかった」


「…ううん、三成さん…謙信さんね、実は多分初恋の人なの。だから…」


「俺にそなたを縛ることはできぬ。…そなたのことを何も知らぬし、何もしてやれない。だから、迷っていい」


「え…?」


桃を布団に入れながら、ぎりぎりまで妥協した案をなんとか笑みで繕いながら話した。


「そなたの心は誰にも束縛できぬ。だが俺のことも選択肢に入れてほしい。謙信を選んだとしても…受け入れる」


「…三成さん…」



ぎゅっと抱き着くと、優しい手が頭を撫でてくれた。


謙信と居るとどきどきしてしまって落ち着かないが、 三成は静かであたたかく、優しい手と時を与えてくれる。


…結局は二人とも選んではならない戦国時代の英傑。


だがそれを口にしてしまうと三成が悲しむ。

…謙信も悲しむかもしれない。


「…あったかい」


胸にしがみついた桃を優しく抱きしめた。


まさかこんなに愛しいと思える女子と出会えるだなんて――


せつなさで胸がいっぱいになった。
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