優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「なんで拙者がおぬしを町になど…」


大山は先程から小言ばかり吐きながら桃の買い物に付き合っていた。


…というよりも、すさまじく目立つ。


女性は簡素な着物で肌は露出せず、もちろん足首まで隠れているのに対し、

桃は…膝上まで肌が露出し、見たこともない服で往来を鼻歌を唄いながら闊歩していた。


「おぬし、その身なりは改めた方が…」


「だって動きにくいじゃん。着物だと走れないし、馬にだって乗れないでしょ?」


「…馬!?」


ただでさえ目立っているのに、大山は素っ頓狂に大声を上げて桃を呼び止めた。


「おぬし…女子なのに馬に乗れるのか?」


「あー、差別発言!女の子だって馬くらい乗るよ。上のお姉ちゃんが乗馬部でね、ちっちゃい頃からよく馬に乗ってたんだよー。もしかして三成さん家にも居る?」


「い、居るが…女子が馬に乗るなど…」


「わあ、やった!後でお願いしてみよっと!」


――破天荒に明るい。

思わず気概を削がれた大山は、ひとつの露天の漬物屋の前で立ち止まった桃に歩み寄る。

…漬物屋の禿頭の店主は…桃を見て呆然としていた。


「あんた…どこから来たんだい?」


「え、同じ日本人だよ。ねえ、その漬物味見させてくんない?」


「味見!?」


――どうやら味見という習慣がないらしく、桃は思い切りため息をついて、漬物が入っている小坪を指差した。


「あのね、味見しないと美味しいかどうかわかんないでしょ?美味しかったら買ってくれるし、それに“あそこの漬物は美味しいよ”ってみんなに広めてくれたりしてお店は大きくなってくんだよ!」


…つまりは味見をしたいがために必死になって店主を説得しようとしていたわけなのだが…

恐る恐るといった体で店主が一切れキュウリの漬物を差し出すと、桃は顔を輝かせながら口に放り込んだ。

しばしもぐもぐと口を動かし…さらに満面の笑みでグーサインを出した。


「これすごく美味しいよ!ね、大山さん、三成さんにこれ買ってこ!」


「…三成様の所の小姓なのかい!?」


――あの屋敷で女子が働けるはずがない。


それはもはや伝説の域に達している噂だった。
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