優しい手①~戦国:石田三成~【完】
ダイレクトに伝わってくる桃のやわらかい身体が腰に、そして胸にあたり、幸村は爆発寸前だった。


「幸村さん?ど、どしたの?」


自分に“男”を感じてくれない桃が疎ましく、さらに強く抱きしめる。


慌てたように身体を少し動かした桃が苦しそうな声を出したので、はっとなって身体を離した。


「…申し訳ありません…!」


「ううん、びっくりしたぁ。暑いし立ちくらみしちゃったのかな?幸村さんも泳ぐ?そしたら気分良くなるかもよ?」


「いえ、拙者は。姫、どうぞご存分にお楽しみくださいませ」


その場で屈伸運動や伸びという準備体操を始めた桃の身体が…胸がやわらかく揺れるのをどうしても見てしまう幸村は脱兎の如くその場から逃げ出した。


「幸村さん!?」


「先に戻っておりますので!」


――慌てて三成たちの居る所まで戻ると、三人は固まった場所で泉の前に座り、景色を楽しんでいた。

…楽しんでいるようには見えるが、それぞれ違う国の主や重臣。腹の探り合いをしていたらしく、空気はかなり悪い。


「あれ、幸村?姫はどうしたの?」


「あー…、姫は…その…」


「やっぱり覗いちゃった?意外と幸村は変態だね」


謙信に茶化されて猛然と言い訳を開始しようとした時…


「どいてどいてー!」


「!?」


全員が振り返るともう桃は目の前まで来ていて、三人の頭上を桃がぴょんと飛び越えて泉にダイブした。


…もちろんその間…


頭の上を飛び越えて行く桃を全員ばっちり見ていて口元を覆う。…謙信以外は。


「これはこれは…」


「か、かなりけしからん格好だな。女子に頭上を飛び越えられるなどはじめての経験だぞ」


百戦錬磨の政宗さえもそう言って顔を赤くし、三成は水音の後顔を出した桃に怒鳴るような勢いで叱った。


「桃!そ、その格好は何だ!?」


「え?水着だけど…。わー気持ちいー!あ、この辺は浅いんだね!」


――立ち上がる。

腰の辺りまでが見えて、水滴が首から胸へと伝い…


男たちは生唾を飲み込んだ。…謙信以外は。


「私も泳ごうかなあ」


声は間延びしていたが、熱を帯びていた。
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