優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「失礼するよ」


政宗から羽織りを無理矢理着せられてがんじがらめになっていた二人に声をかけてきたのは…謙信だった。


目に見えてがっかりする政宗を面白そうに見つつ、謙信が入って来た途端急に恥ずかしがって座り込んだ桃にもむかっとしながら悪態をついた。


「日和見主義がでしゃばる場面ではないぞ」


「面白そうな匂いがしたものだから来てみたらやっぱりね。私も加えてもらおうかな」


――その手には、藤色の可愛らしい雰囲気の着物。


驚く桃が目を丸くしていると、目の前に片膝をついて着物を差し出した。


「そんなことじゃないかと思ってたよ。さあ、これを着て」


「謙信さん…なんで…なんでわかるの…?」


うろたえながらキスしそうな距離まで詰め寄ると…


「嫉妬に苦しんでいる目をしていたから。その着物、私が焼き払ってあげようか?」


――大きな手が後頭部に伸び、そのまま引き寄せられて、優しく抱きしめられた。


…謙信がはじめて慰めてくれた。


「…ぅっ、ひっく…っ、私…そんなにひどい顔、してる…!?」


「うん、そんなに泣くと目が溶けちゃうよ」


手柄を謙信から漁夫の利状態で掻っ攫われてしまい、激怒しつつも桃は謙信に任せた方がいいと判断し、政宗がそっと部屋を後にする。


「三成さん…抱き合ってたの。…女の人と…」


「私が察するにお相手は茶々殿なんだけど…合ってる?」


また看破されてしゃくり上げると、悪気もなく謙信は声を上げて笑い、桃の頭を撫でた。


「あの二人が怪しいのは結構有名な話だよ。まあ、三成は興味がなかったみたいだけど…抱き合ってたの?」


「うん…私が行かなかったら…キスしてたかも…!」


キスという言葉がつまり口づけだともう知っていた謙信はため息をついた。


「茶々殿は美しいものね。ま、私は興味ないけど」


膝の上で謙信が持って来た着物をきつく握り締めながら黙っていると、顎をとられ、顔を上げさせられて唇が優しく重なった。


「…ん…っ!」


「桃姫だけを生涯愛し抜くことを誓うから私の元へおいで」


甘い言葉に飲み込まれる。
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