優しい手①~戦国:石田三成~【完】
この時代へ来て、茶々以外の女の人とほとんど話をしたことのなかった桃は兼続の後ろで揺られている女に馬を寄せて脚を気遣った。


「私、痛み止め持ってるよ?」


「痛み止め?薬草…ですか?ありがとうございます、でも大丈夫ですから」


ふわっと笑った女にぽーっとなってでれでれしていると厳しい顔つきの三成と目が合い、女から離れた。


「三成さん怖い顔してる」


「当たり前だ。先ほど俺や幸村が言ったことを覚えているな?」


「うん、でも脚は本当に腫れてたし…演技だとしても心配だよ」

 
顔を曇らせて本気で心配する桃の優しさが瑞々しく、毎日が裏切りや疑うことの連続な三成は頬を緩ませて小さく微笑み、またクロの尻を叩いた。


「勝負だ。どちらがより早く宿に着けるか賭けよう」


「あ、卑怯!でもクロちゃんだってすごいんだから負けないんだからね!頑張ってねクロちゃん!」


応えるように鼻を鳴らして猪突猛進の如く走り去って行く2頭と2人を呆れ返りながら謙信が肩を竦める。


「狙われていることをまた姫は忘れているようだね」


「いや、女を問い質す時間ができたというものだ。おい女、どこの者だ。徳川か?」


「い、いえ、私は誰にも雇われてはおりません。信じてください…」


――五人とも疑いの眼差しで女の頭から爪先までをくまなく視線で調べ上げ、武器も所持していない女を追及するのをいったんやめて桃たちを追いかけることにした。


「あと私をじろじろ見るのはよしてもらおうかな。いい男なのは知ってるけど、私は桃姫のものだからね」


冗談なのか本気なのかつかない言葉と気さくな性格に女の頬が赤くなって俯いた。


「謙信公、“生涯不犯”はただの妄想だな?俺には百戦錬磨のように見えるぞ、桃を食らうのは俺だからな、“生涯不犯”を貫き通せ!」


「もうちょっとで私に傾きそうなんだから政宗は早く奥州にまた籠もってそれなりの家からそれなりの姫を貰いなよ」


――主君同士の掛け合いと従者同士の腹の探り合いを一歩引いた観点から幸村が見定めていた。


普段は純情で超がつく照れ屋だが、女からけして視線を外さずに注意をしていた。


女は全身で幸村の視線に耐えていた。
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