優しい手①~戦国:石田三成~【完】
2泊目の宿の調査をすでに終えていた伊達と上杉の忍者集団が辺りを囲み、陽が暮れて少し涼しくなった時にようやく女を連れた謙信たちと合流した。


「ちょっと時間がかかっちゃったね」


「俺たちと同じ部屋は困る。その女、うさん臭すぎるからな」


――三成の包み隠さない疑惑に染まった声に桃が一瞬顔を上げたが、また俯いた。


「幸村、主人に事情を説明して違う部屋に泊めるように言っておいで。軒猿にも監視させよう」


一応の警戒、ということで、謙信が馬から降りながらまだ馬上の桃に手を伸ばす。


「おいで」


「あ…えっと……はい…」


断るに断りきれず、背中に三成の視線を感じながらも抱きかかえられて下ろしてくれると、桃と女の視線がぶつかった。


「危ないもの持ってないんでしょ?だったら一緒にお風呂に入ってきていい?」


「ならぬ。女子の身体には我らには想像できぬほど武器を隠す場所など沢山あるという。この場で服を脱がせて検分する、というならば話は別だが」


冷え切った声を出した政宗が顔を曇らせた桃に慌てて言い訳をはじめた。


「俺たちはそなたを守らねばならんのだ。今は疑うことが大事故、わかってくれ」


「…はい」


「幸村、案内してやって」


「はっ」


――十文字の槍の矛先を布で隠していつつも強く握りしめたまま、右脚を庇うようにして立っている女に視線で合図をして宿の中へと脚を踏み入れる。


「幸村様…もう少しゆっくり歩いて下さいませ…」


背中でか細い声がして無言で立ち止まると追いついた女が儚く微笑みかけてきて、渋面を作った。


…女は元々苦手で、しかも今までほとんど接してきたことがない幸村にはこの任務は肩の荷が重く、また無言で歩きだす。


「あっ」


床の板と板の間に脚をとられてよろけた女が幸村に向かって倒れた。


咄嗟に腕を伸ばして受け止めたが、何か頭の芯から痺れるような香の匂いがして突き飛ばすようにして離れた。


「拙者に触れるな。気を付けて歩かれよ」


恐ろしくいやな予感がする。

戦場において働く勘が冴え渡り、いち早く桃の傍からこの女を追い払いたくて、また黙り込んだ。
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