優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「いいお湯でした!」


湯上りの桃が頬を上気させながら戻ってきた。

逆に幸村は気疲れでくたくたになっていて、政宗や謙信が密かに苦笑しつつ桃を呼び寄せた。


「今宵はそなたから酒を注いでもらおうか」


「いいよ!あ、謙信さんはあまり飲み過ぎないようにね」


目を合わさずに瞳を閉じていた謙信にそう注意をして、そして三成の様子がおかしいことに気が付いた。


「?三成さ…」


「少し外へ出て来る」


――表情はぴくりとも動いてはいなかったが、三成の傍で過ごしてきた桃は微細な変化でもわかるようになっていて、

部屋を出て行く三成を見送り、窓辺からどちらの方向へ歩いて行くのかを確認するとさっと立ち上がった。


「私もっ、ちょっと外に出てきます!」


「いいよ、なるべく早めにね」


綺麗な小川が流れる川沿いを三成を捜して足早に歩いていると、土手に寝転がり、空を見上げている三成を発見して声をかけた。


「三成さん!」


「!桃…」


驚いた顔をしたので、まだ強張っているその表情を緩めてやろうと決心し、隣に座ると膝を抱えて空を見上げた。


「星が綺麗だね。私が住んでる所は空が濁ってて見えないから新鮮」


「そうなのか?…もう暗い、部屋に戻って謙信の隣に居た方がいい」


「え?なんで謙信さんの…隣…?」


嫉妬心が三成の鉄面皮を溶かし、謙信の名を聞いた途端動揺する桃に“奪われた”という感覚が猛烈に競り上がってきて、桃の身体を抱き寄せて土手に押し倒した。


「三成さん…っ」


「そなたが…謙信の想いに応えたとしても仕方のないこと。吸引力のあるあの男には誰にも勝てぬ。…だが桃、それまでは…共に在ってくれ」


腕の中の小さな身体が震えた。

湯上りの石鹸の良い香りが漂い、唇を奪おうと近づけかけて、桃の苦悩に染まった顔に気が付き、そっと腕を離して起き上がる。


「…すまぬ、詮無いことを言った」


「三成さん…私…謙信さんに逆らえないの」


「…ああ」


「でも…三成さんに触ってほしいって思うし…この世界で三成さんのこと、一番好きだよ」


――今度は桃が抱き着いて来て、身体が強張る。
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