優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信より、俺を選んでくれた…?


――それが例え一時のものだとしても、桃のその告白は三成を昂らせて、高揚させた。


「俺が…好きか?」


「え、そ、そんな真面目な顔で聞き返さないでよ…」


どぎまぎと視線を逸らした桃の右手を引いて、また胸の中に引き寄せた。


どんどん空が暗くなっていく中、桃の白い肌が抜けるように鮮やかに映り、


“一番好き”と言われたことが本当に嬉しくて、

その性格故にあまり好意を持たれたことのない三成にとっては桃がくれる言葉はいつもいつも、少し恥ずかしいけれど、滅多に動かない表情をいつも緩ませてくれる。


「俺を好いているということは…いつかは抱かれてもいいということなのか?」


「え、そ、それは駄目だよ…っ」


「駄目ではないだろう?俺に触れられたいと先ほど言ったではないか」


「い、言ったけど…ぁっ!」


――まだ誰にも触られたことのない部分を、三成に――


「こんな、外で…っ、三成さ、だ、め…!」


「桃…もっと乱れてくれ…」


少し切羽詰まった声を出す三成と、

そしていつもは尖っているその瞳が優しくやわらいているのを見て、また桃も自分を抑えられなくなって、高い声が漏れた。


「ん…っ」


「桃…ここで抱きたい。そなたの“はじめて”を、俺にくれ…」


人ひとり通らない川沿いの土手――

いつの間にか蛍が周りを飛んでいて、虫の声と、川の流れる音と、そして三成の甘い囁きがいつもの“駄目!”を弱らせる。


「好き…、三成さん…好き…!」


「…いいんだな?ここで抱いても…いいんだな?」


あまりの恥ずかしさに言葉もなく顔を手で覆う桃のいじらしさにまた昂りつつ、謙信には絶対にやらない、とまた強く誓い、下着に目を遣った時――


ぱきっ。



「!?」


枯れ枝を踏むような音がして、即座に刀を手に起き上がる。


「何者だ!」


「…」


返答はなく、そして微かに在った気配も瞬時に消えた。


「三成さん…?」


「…戻ろう。外は危ない」


絶好のチャンスを、失った。
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