優しい手①~戦国:石田三成~【完】
どうしたことか三成の傍から離れがたく、盃を傾ける三成の指ばかりを見つめてしまっていた。


「して、あの清野という女が桃姫の正体を知っている素振りを見せているそうだが、沙汰はどうするのだ?」


政宗が桃の手の甲を指先で愛でながら謙信に問う。


…もう彼らの中で謙信は普通にリーダー的な立場になっていて、どうにものんびり屋なリーダーではあったが、常に的確な指示を出していたので異論はなかった。


「しばらくは行動を共にするしかないだろうね。かなり怪しいんだけどそこは私たちで目を払って注意していこう。三成はどう思う?」


どこか寄り添うような形で三成にぴったりとくっついている桃に謙信と兼続以外の誰もがやきもきしていたが、三成の落ち着き払った声がまた桃の鼓膜を震わせる。


「あの女は間違いなく間諜。桃にどんな嘘ごとを吹き込むやも知れぬ。貴公らも侮らぬよう」


「ふん、わかっている。ああしかし疲れたな…。今宵は早めに寝るとしようか」


政宗の眠たそうな声がきっかけになり、宿の主人たちに布団を敷いてもらうと、桃がそそくさと三成の隣の布団に陣取った。


――一同が見守る中、三成がふっと桃に笑いかけて肩を竦め、桃が布団の中に入って寝る体制に入る。


今夜桃の左側をゲットしたのは幸村で、自分にチャンスはないのだとわかっていつつも桃の寝顔を見れるだけで至福の喜びを感じることのできる純情馬鹿は、


複雑な思いに駆られながらも灯りを消して部屋を暗くした。


――早速寝息が聞こえたのは謙信で、河原での出来事が忘れられない桃はそろりと手を伸ばして布団の中の三成の手を握る。


「…何だ?」


「三成さん…平気なの?」


まだ熱が冷めない。

…忘れられるわけがない。


「…闇が怖いのならこっちに来い」


「う、うん」


皆が寝静まった頃三成の布団に潜り込み、抱きしめてもらう。


ただ先ほどのように三成が求めてくることはなく、もどかしさに揺れて閉じた瞳に頬を摺り寄せると、ようやく腰を抱いて密着してきた。


「…昂っているのか?」


「…うん。続き…しないの?私…」


桃からの誘いに、抑えていた熱がぶり返す。

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