優しい手①~戦国:石田三成~【完】
政宗と幸村がそわそわする中、謙信は一人料理に舌鼓を打っていた。


「食べないの?」


「…貴公の心臓には毛が生えているようだな。桃姫が三成に何かされるとは思わないのか?!」


「うーんどうかなあ…。それよか独眼竜くん、君はたいそう男前だし、さぞ遊んでるんだろうけれど、何も桃姫に狙いをつけなくてもいいんじゃない?」


「あの女子は天下一を獲るべく男の隣に立っていい女子だ。可憐でいて芯が強く、男に媚びぬ。意見もすれば、身体も素晴らしくやわらかい。男の理想ぞ」


詩を読んでいるかのように自身の言葉にうっとりしながら腕組みをして何度も頷いている政宗を酒の肴にしつつ、謙信は笑い声を上げた。


「そうだね、でも君にはあんな女子を手に入れるのは早すぎる。私が妥当じゃないかなあ」


あっけらかんとそう言って、国を背負う国主同士の大人げない諍いに肝を冷やしながら正座している幸村に、今度は狙いがつけられた。


「そこの戦馬鹿はどうなのだ」


「!せ、拙者は………とても桃姫には釣り合いませぬ。拙者はお傍に居れるだけで…」


「奥ゆかしいね。私ならこんなこともして…ああして…あ、これはその後か。それで…」


…謙信の赤裸々な床講座に、抱いた女子の数は星の数ほど、と豪語する政宗も…


未だ女子を抱いたことはなく、純情一直線の戦馬鹿も…


そして少し離れて座っていた小十郎と兼続も思わずにじり寄って、その講座を受講してしまった。


「うぬ…貴公…、やはり“生涯不犯”は嘘であったな!?そ、そんなことまでするとは!正気か?!」


「え、当然じゃない?」


「殿!さすがでございます!今後は桃姫様お一人になされますように!」


幸村一人が耳まで真っ赤にして、それでも耳を抑えないのは、興味があるからだ。


しかし今にも鼻血が出そうなほど顔色が赤いので、そろそろ意地悪もやめてやろうかと思った時…


「戻った」


端的でいて冷たい声がして、先に入ってきたのは三成だった。

いつもより剣のある目をしていたが、続いて入って来た桃は…顔が真っ赤だった。


「あの堅物め、桃姫に何かしたのではあるまいな!?」


――政宗の予想は当たっていた。
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