優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「ね、ねえ三成さん…怒ってる?怒ってるよね?」


クロの手綱を引いて宿の前まで来た時、息を切らしながら桃が見上げてきた。

確かに清野と知り合ってから悪いことが起きている気はしているが、そんなことよりも両親の情報をもたらした清野を無下にはできない。


――クロが鼻を鳴らしながら桃の肩に顔を摺り寄せ、鼻づらを撫でてやりながらも黙っている三成から何か一言もらうまでは粘る。


「…俺が言ったことを覚えていれば問題ない」


「ちゃんと覚えてるってば。ねえ三成さん、清野さんって謙信さんのこと絶対好きだよね。私…応援したいな!」


クロに跨った時、三成が眉を潜めた。


「なに?」


「だから!謙信さんと清野さんをくっつけよう大作戦…」


――“正気か?”と言いたいのを堪えながら黙って見上げていると、件の謙信が兼続と会話を交わしながら出て来た。


「…それよりも桃…清野のあの恰好では馬には乗れぬぞ」


「あ!ほんとだ!」


着物姿の清野が馬に乗れるわけもなく、クロにくくりつけていたバッグから愛用の白のジャージを出すと、クロから降りた。


「あと、お尻が痛いだろうからバスタオルをくくりつけてた方がいいよね!」


「清野と共にクロに乗るつもりか?」


当たり前のことを聞かれたので当たり前のように頷くと、盛大なため息をつかれた。


「あーっ、もう三成さんったら心配性ー!清野さんは悪さなんかしたりしないってば」


根拠のない自信だったが、桃にはこれ以上何を言っても無駄なような気がしたのでまた黙っていると、

鞍の上にバスタオルを括り付けようと苦戦している桃の頭の上からひょいと謙信の手が伸び、あっという間に出来上がり、桃を喜ばせた。


「今日から姫に随行させてもらうよ。たまには幸村の良い所も見せてあげないとね」


「と、殿っ、何をおっしゃるのですか!」


「ふふっ」


楽しそうにしている謙信がちらっと目線をよこしてきてウインクしてくる。

三成の前で顔を真っ赤にしながら、一番最後に出てきた清野にジャージを差し出した。


「清野さん、これ履いてね!でないと馬に乗れないから!」


早口でまくし立てた。
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