優しい手①~戦国:石田三成~【完】
途中立ち寄った茶屋で馬に水をやり、クロから降りた桃はついお尻をさすってしまった。


「その…痛いのか?」


聞きにくそうにしながら桃にみたらし団子を差し出し、団子に目がくらんだ桃は恥じらいを忘れてぱくりと食いつきながら頷いた。


「うん、あのね、鞍が…鞍がないから…ごほっ」


「ああほら、茶を飲め」


甲斐甲斐しく桃の世話をする三成の様がおかしく、ひそりと笑う謙信たちに気付いていながらも、

彼らから少し離れた場所で茶を飲み、謙信に熱い眼差しを送っている清野を盗み見ては団子を飲み込んだ。


「ずっと見てるね…。そんなに好きなら話しかければいいのに」


「女子とは慎ましやかでむやみに男には話しかけないものだ」


「偏見ー。私は好きな人には猛烈アタックしちゃうけどなー」


「…そなたもよく謙信を見つめているようだが…俺のことは気にも留めてないのか?」


「え…、そ、そんなことないよ」


「口の端にたれが付いているぞ」


――皆から桃が見えないように背を向けて立ち、背を屈めて舌でたれを掬い取る。


「ひゃっ」


「謙信が随行などどれほど羨まれるかわからないというのに、そなたは呑気だな。随行を許すんじゃなかった」


最後に指できゅっとたれを拭いてくれると、皆の輪に加わってまた兼続たちからもみくちゃにされている三成をドキドキしながら見つめた後清野の隣に移動して座った。


――湯呑を膝に置きながら、こそっと清野が耳打ちしてきた。


「ふふ、三成さんと良い仲なんですね?」


「えぇ!?そそ、そんなことないよっ」


「けれど…謙信様とも…仲が良さそうで羨ましい…」


ぽつりと聞こえた清野の本音に心臓が跳ね上がった。


こちらを厳しい瞳でガン見している幸村と目が合い、手を振ると照れたように顔を背け、清野の笑いを誘った。


「皆様から好かれていて羨ましい。私は…謙信様に惹かれているから…桃さん、応援してもらえないでしょうか?」


突然の申し出に、心臓が痛いほどに縮んだ。


「応援?う、うんいいよ、謙信さん優しいし、きっと…うまくいくんじゃないかなっ」


虚勢を張った。
< 231 / 671 >

この作品をシェア

pagetop