優しい手①~戦国:石田三成~【完】
本心は“応援する”と言いながら、心底から出た言葉ではなく…それが桃を苦しめていた。


――茶屋を出発し、快走する中先ほどまで元気だった桃が黙っているので、三成たちはそれを心配したが…

謙信だけが相変わらずマイペースで何も聞かずに気持ち良さそうに風を受けている。


すでに信濃に入り、三成から返してもらったペンダントを無意識に手でいじっていると、ようやく謙信が話しかけてきた。


「桃姫の親御はどうして私の国に居るんだろうね。石は探さなかったのかな」


「わかんない…。でもっ、清野さんのおかげで情報が増えたし!私は嬉しいよ!」


清野を話の引き合いに出してきて、気を引かせようとするが、謙信は清野とは口を聞こうとしない。

普段朗らかなのに、清野が話に乗ってこようと口を開こうとすると決まって速度を落としたりして会話を避けた。


「私…やっぱり謙信様に嫌われて…」


「清野、我が殿はそこらの女子と会話を交わしたりはせぬ。孤高の存在なるぞ!」


「兼続、うるさい」


謙信に笑いながら窘められて舌を出したが、桃としては清野の約束もあり、2人が会話を交わせるように苦心する。


「その…謙信さんって清野さんみたいな人はタイプじゃないの?綺麗で優しいし…男の人ってみんなこういう人が好きなんじゃないの?」


「そ、そんな、桃さん…」


顔を赤らめた清野に対し、また速度を上げて馬を寄せてきながら空を見上げてうーん、と唸った。


「私の女子の嗜好ってこと?そうだね、髪が少し短くってじゃじゃ馬で、お転婆で可愛らしくて、“駄目!”が口癖の女子なら大好きだよ」


「え……」


ふふ、と笑ってこの時代ではまだ珍しいウィンクをまたしてくると、前方に視線を戻した。


「だから他の女子なんかに目もくれるわけがない。ああ早く正室に迎え入れたいんだけどなあ」


――この時、桃の心が…少し、喜んだ。


綺麗で儚げで優しい清野よりも自分を選んでくれたことを、喜んだ。


「桃さん…もう、いいですから…」


傷ついた声をあげた清野に対して申し訳なくなって、桃は小さな声で何度も何度も謝った。



「ごめん…ごめんね、清野さん…」
< 232 / 671 >

この作品をシェア

pagetop