優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成と仲直りをした桃はものすごい勢いで膳に乗せられているものを平らげていく。


「ここに居ると太っちゃう!だって全部美味しいんだもんっ」


「それはよかった。じゃあずっとここで一緒に住もっか」


――そう言ってまた桃をからかっていたが、三成たちは謙信の様子が少しおかしいことに気が付いていた。

兼続は特に如実にその変化を読み取っており、一向に酒が進んでいない謙信の様子ににじり寄ると対峙する。


「殿、いかがなされたのですか?少々ご様子が…」


「…そう?だったらそうなのかな。ごめん、ちょっと抜けるけど君たちは楽しむといいよ」


「え、謙信さん?」


「いくらでもお代わりしていいからね」


そのまま居なくなってしまい、

いつもの謙信ではないことに桃も気が付き、その後は居ても立っても居られなくなって、三成の方に身体を向けると手を差し伸べる。


「三成さん、お願い…連れてって」


「…謙信の所へか?」


「気になるの。なんか悩んでる感じだったし…私、悩みがある時はいつも謙信さんに聞いてもらってたから助けになりたいの」


――そう言われてしまうと断れず、桃の手を引いて立ち上がると毘沙門堂へと向かう。


「確かに様子はおかしかったが…あまり深入りはせぬ方がいい。そなたは俺と尾張へ帰るのだから」


「うん…。わかってるけど、ほっとけないし…。いいよね?」


「俺の許しは要らぬ。行って来い」


本当は行かせたくなかったが、毘沙門堂の前で番をしていた幸村に桃を渡すとすぐに踵を返して大広間へと戻った。


「謙信、さん?」


入り口からそっと声をかけたが、返事はない。

だが謙信の乳香の香りはして、数歩先へ進むとその場に座り、謙信が気付いてくれるのを待った。


――1時間はそうしていたと思う。

だんだん脚が痺れてきて、そして徐々に鮮明に聴こえてきだした謙信がお経を読む声が頭に響いて、身体が揺れ出す。


桃の手は自然と謙信が教えてくれた印を結んでいた。


そうしているとまた謙信の世界に引きずり込まれて身体が倒れそうになった時――手が伸びて、支えてくれた。


「桃…」


声は震えていた。
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