優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「では、出仕してくる」


なんだか懐いてしまった三成の黒毛の馬が桃の髪を鼻で触りながら会話の邪魔をする中、桃と幸村は見送りに庭に出て来ていた。


「行ってらっしゃい!早く帰って来てね!」


――はたから聞いていれば夫の帰りを心待ちにする新妻の如く台詞だったが桃はそれに気付かない。

だが幸村は気付いていて、やや頬を緩めた三成を見上げては不審がっていた。


「じゃあ…握手しよっ」


ハグの代わりの代替案が握手。
もちろんそんな習慣のない時代にあって、幸村の目にもそれは奇妙で…新鮮に見えた。


「桃殿?それは…?」


「え?あ、そっか…これはね、友情の証なんだよー。幸村さんもする?」


にこにこ笑いながら小さな手を差し出す桃の手を凝視しながら幸村はごくりと喉を鳴らした。


…逆に三成は、幸村にも簡単に握手を許す桃にやや苛立ちを感じながら馬を走らせる。


「あっ行ってらっしゃあい!」


手を握る前に、その小さな手が高く振り上げられてしまって機会を逃した幸村はがっくりと肩を落とす。


「よしっ今日も探しますかあ!」


「そういえば…桃殿は何故川に?何か探しておられるのか?」


少し伸びた後ろ髪を束ねて縛りながら幸村が聞くと…またもや桃は口ごもった。


「えっと…うん、探してるものがあるんだけどなかなか見つからなくて…」


「なるほど!よろしければ拙者も微力ながら…」


「わっほんと!?幸村さんありがとーっ大好き!」


いきなりがばっと抱き着かれて、女子は慎ましやかで積極的ではないこの時代の桃の行動に、

幸村の頭にヤカンを乗せればすぐに沸騰するのでは…というくらいに真っ赤になった。


「も…桃殿…!せ、拙者は…っ!」


「へ?」


肩をがしっと捕まれて顔を徐々に近付けていく幸村の顔を桃はじっと見つめていた。


その視線に耐えられなくなったのは幸村の方で…

地に落とした十文字の槍を拾い上げると脱兎の如くその場から逃げ出した。


「どしたの幸村さん…」


――天然の桃に…

ド天然な三成。


幸村は早々に越後へと帰った方が良かったのかもしれない。
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