優しい手①~戦国:石田三成~【完】
城下町に甲冑姿はさすがに目立つので、幸村に平服に着替えてもらってから桃はまたオーパーツを探しに街へと繰り出した。


「何を探されておいでなのか?」


「え?うーんとねえ…ちょっと珍しいものかな」


「南蛮ものですか?最近は織田や奥州の伊達が執心のようですが」


――歩いていると、街の皆が幸村のことを気にするように見ているので桃は横を歩く幸村を見上げた。


活発そうで闊達な印象が強く、生気に漲る黒瞳は好奇心に輝いている。


「?も、桃殿?」


視線に気付いたのかどぎまぎとする幸村の手を、桃は急に握った。


「!」


「さっき握手してなかったよね?これは握手とは違うんだけど、まいっか!」


固い幸村の手の感触は、三成の手とは少し違うような気がした。


「ちっ、違うとは?」


立ち止まらずに歩きながら桃は舌を小さく出して無邪気に笑った。


「恋人同士はこうやって手を繋いで歩くんだよ。幸村さんの手…おっきいねえ」


何の気無しに言ったのだが、先程から幸村の顔色が常に変化していて桃の笑顔をまた誘った。


「幸村さん…かーわいい!」


――大の男に言う台詞ではなかったが、それでも幸村はやや嬉しそうにしてしきりに照れている。


「いやはや…桃殿は本当にお可愛らしい」


「またまたあ!おだてたって何もあげないんだからあ!」


ばしばしと幸村の背中を叩いた時――


前を行く大仰な輿を抱えた男たちの前に子供が飛び出した。


驚いた太刀を帯刀した男が太刀を抜いて叫んだ。


「失礼な!この御輿に乗られている方をどなたと心得る!」


振りかぶられた太刀にも動じずに、幸村よりも先に身体が動いて、

桃は身を呈して子供を抱えると目を閉じてうずくまる。


「桃殿!」


槍の代わりに帯刀していた幸村が鞘で太刀を受け止めた。


「これ…子供に太刀を向けるのではありませんよ」


静かに御輿の中から聞こえた声は…


女の人の声だった。


…ような気がした。


何故ならば


桃は気を失ってしまっていたからだ。
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