優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「この助平が!」


…いきなり主君から助平呼ばわりされた三成は筆を止めた。


「可愛い娘じゃのう、お前も見かけによらず実は堅物ではなかったのかのう、いやあ実に愉快愉快!」


背中を叩かれながらも一向に意味を理解できない三成は、怜悧な切れ長の瞳をさらに細くしては主君にあるまじき言葉を口にした。


「せめて私に理解できる言葉を。これではまるで猿と話をしているようですが」


幼い頃に秀吉に目をかけられて才を発揮して果ては奉行にまで上り詰めた三成は思ったことを包み隠さず口にする。


そのせいで煙たがられることも多かったが、これが三成の本分であるため本人は気にしていない。


「ほ?知らんのか?妙な格好をした年端のいかぬ女子がお前の名を呼んどるが?」


――主君の秀吉の顔を見つめながら考えに考えた。


だが、そんな女子は一人しか思いつかない。


「…脚を露出させた女子のことでは?」


「知っとるじゃないか」


そう言われた途端三成は機敏に立ち上がり、秀吉に先を促す。


「その女子はどこに?」


「茶々の所におるようだぞ」


…茶々。

苦々しい思いになりながら、三成は秀吉を置いて足早に歩き出した。


「お前のなんなんじゃ?これ、言わぬか」


何故かうきうきしながらついて来る秀吉を無視して、三成は茶々の部屋の前にたどり着き、襖の前で膝を折った。


「石田三成にございます。失礼いたします」


すらりと襖を開けると…


微笑む茶々の隣に…まばゆく美しい美女が座ってこちらを見つめていた。

濡れたように黒い髪が長く、豪奢な着物を着て置物のように座っている。


――思わず心臓の跳ね上がった三成は、ただただその美女を見つめ続ける。


だが

その美女が…くしゃっと笑った。


その笑顔を、


三成は知っていた。


「…桃!?」


「三成さん…!」


…唖然とした。

髪の短いはずの桃は付け髪によって長くなり、薄く施された白粉と赤く塗られた紅が白い肌に映えて、

普段の桃とは全く違う有様になっていたのだ。


三成は、見惚れていた。
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