優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「なんじゃこの装いは?」


「殿…お戯れが過ぎます。この娘は身を呈して童子を庇って…」


――遠くで会話をしていた声が徐々に近くなり、桃は目を開けた。


髷を結ったあごひげをたくわえた派手な羽織りを着た中年の男と、…これまたとても綺麗な優しげに笑う長い髪の着物姿の女が居た。


「…えっ!?」


どちらも知らないし、一緒に居たはずの幸村も居ない。

パニックになった桃は布団を首までずり上げながら後ずさりした。


「使用人が大変無礼を働きました。あの輿にはわたくしが乗っていたのです」


桃はただ唖然と聞いていたが…ようやく話がつながってぽんと手を叩いた所で…髷の男が興味津々の体で外を指差した。


「おぬしは最近城下町で変わった装いで居るという娘じゃな?」


…差した方向には…桃の場所からは何も見えなかった。

恐る恐る立ち上がり、その方へと近付くと…


「こ…ここって…!」


見下ろせば城下町――


そこは天守閣だった。


「大坂…城!?」


「いかにも。そなたは茶々が拾うて来たのじゃ。のう茶々」


「はい。怪我もなくようございました」


――茶々…?

豊臣秀吉が愛したという側室の名前が確か茶々…通称淀殿…


「そんな…そんな…!」


天下を制した豊臣秀吉が目の前に居る。

いくら人見知りを知らない桃であっても、三成の主に三成の許可なく会うということがどれほど大変なことであるかわかる。


「これ、どうした?」


にこにこと話し掛けてくる秀吉をよそに、桃は目にじわりと涙を溜めながら、ようやく一言だけ絞り出した。


「…三成さん……石田三成さんを…呼んでください」


――秀吉と茶々が驚いたように顔を見合わせた。


「おぬし…三成の関係の者か!?こりゃ驚いた!わはは、誰かすぐに三成を呼べ!」


面白がる秀吉とは対照的に茶々は俯いた桃の手を取ると立たせた。


「わたくしの部屋へ行きましょう。綺麗なお着物があるのよ、着てみてごらんなさい」


促されるままに歩き出しながら、ここから桃の運命は…


大きな奔流に飲み込まれるのであった。
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