優しい手①~戦国:石田三成~【完】
この小さな身体も知っている。


――固まって動けない桃の身体をきつく抱きしめて、じわじわと感じたことのない想いが滲みだしてきて、動揺しながら少し長めの黒髪に指を潜らせた。


「…待っていてもらえなかったのは、俺のせいか…」


「…記憶もないくせに…どうして会いに来たの?私、もう決めたの。だから離して」


…冷たい声。

そんな声色を出されたことに胸が締め付けられて、ゆるゆると桃から身体を離す。


が、両腕は…握ったまま、離れない。


「…俺が記憶を取り戻したならば…どうする?」


「私は謙信さんと幸せになるの。あなたは三成さんじゃない。私の知ってる三成さんじゃないから」


――つっと涙が頬を伝い、息を呑んでいると桃は三成の手を振り払って部屋を飛び出る直前――


「桃姫……」


「その呼び方…やっぱり違う。私とはその程度の関係だったのかな」


「違うっ、桃姫…っ」


すっと部屋を出て行った。


三成は視線を揺らしながら文に目を落とす。


覚悟の末に書いた手紙なのだと思った。


万が一自分に何かあった場合、桃を悲しませないために謙信と夫婦になってほしい、としたためた手紙…


「…尾張には戻れぬ。このままでは…無理だ…!」


――軍議中の謙信の元に桃が駆け込んできた。


目は真っ赤で…唇は内出血するほどに噛み締めていて、上座の謙信と家臣団を交互に見つめて、頭を下げた。


「ごめん、なさい…」


「ちょっと休憩を挟もうか」


その一声で家臣団が頭を下げ、大広間から出て行き、兼続と幸村が人払いをして襖の外に陣取って座り込む。


「桃、おいで」


「…謙信さん…あの人…三成さんじゃないよ」


「うん、今は違うかもしれないね。桃、泣いていたの?泣かされた?」


「ううん、勝手に泣いたの。謙信さん…抱っこしてもらっていい?」


「甘えん坊だね、おいで」


――膝に上り込んで抱き着くと、優しく大きな包容感に包まれて、みるみる気が落ち着いてきた。


そうされながら“桃姫”と呼ぶ三成の偽物を許す気になれなくて、その心情を吐露する。


「三成さんじゃない…」
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