優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信から熱を与えられて、足元がふらふらしながら謙信と手を繋いで部屋へと戻る間――


どこかへ向かおうとしていた三成の前にお園が膝をついて座り込み、万感の思いでかつて愛した男を見上げていた。


「お園…」


「あなた様が死ぬわけがない…!お園は毎日そう強く思っておりました…!」


三成の顔が困惑しているのが見てとれた。


謙信は桃を腕に抱くと柱の影に隠れ、成り行きを見守る腹でいた。


「謙信、さん…。やめようよ…」


「本当は気になってるくせに。見なくていいの?」


「…」


気を落ち着かせるために乳香の香りを思いきり吸い込んで背中に腕を回し、2人の会話に聞き耳を立てる。


「桃姫に会いにここまで来た。記憶を取り戻しに…」


「今更取り戻せたとて桃姫様は謙信様のご正室に入られるのですよ?」


「わかっている!」


苛立ち、焦燥感――…


怜悧で冷静な三成が気を乱し、謙信は三成が記憶を失ってもなお桃に惹かれていることに苦笑を隠せず、深く深呼吸をする。


「謙信さん…?」


「これは参った。だけど君は私のものだよ」


「あ、謙信さん……っ、ん…」


――がたっと音がして、身構えてそちらに目を遣ると…湯上りの謙信が桃を柱に身体を押し付けながら、あの可憐な唇を貪っていた。


「三成様…ご辛抱を…」


お園が願いを込めてそう訴える。


謙信は三成から見えるように舌を絡めて、桃の細い太股に手を這わせた。


「謙信公…!」


「ああごめん、居たの?さっきしたばっかりなのに昂りが収まらなくてね。桃、大丈夫?」


「………うん…」


…顔を見せてくれない。

こちらを見てくれない。


「…桃、姫…」


「…なあに?」


謙信の腕に抱かれながら顔を隠して返事をすると、三成はその後黙ったままだった。


もう1度聞いてみる。


「……」


答えない。


謙信が歩き出して、2人の間に距離ができる。


曲がり角まで見送り、思いきり拳で柱を殴りつけた。


「三成様…」


「…桃……!」


――“桃”と呼びたい…
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