優しい手①~戦国:石田三成~【完】
どうしてこんなに悲しいのか、わからない。

止めどなく涙は溢れて、謙信に連れられて毘沙門堂に入り、今にも動きそうな毘沙門天の像を見上げると過呼吸気味の息がだんだん整ってきて、謙信が髪を撫でてくれた。


「秀吉公の代行は何も三成でなくてもいいんだ。…尾張に帰ってもらおうか?」


優しい声で、優しい手で触れてくれて、三成の優しい手がさっきはとても激しくて熱くて…また涙がぽろりと零れた。


謙信はじっと桃を見つめて毘沙門天の像の前で腰を下ろし、座禅を組む、像を見上げながらぽつりとつぶやく。


「君と私は前世に結ばれた運命で、そして現世では君は三成と結ばれる運命なのかもしれないね。だから…選べないんじゃないのかな」


「そんなこと…わかんないよ」


「うん、私も思いつきで言ってみただけだよ。だけど桃…私たち両方の手を選ぶことはできないんだ。もう1度、よく考えた方がいい」


――謙信のことも三成のことも、耐えがたく愛しい。

だがもう…三成の手は、離れて行ってしまった。


離したのは、自分だ。


だから…謙信の手だけは、離したくない。


「もうお嫁さんにはしたくなくなっちゃった?だったら私…元の時代に戻るから。大丈夫だよ、いつもの生活に戻るだけだから…」


「…桃…」


愛しさが込み上げてきて、懸命に意地を張って唇を震わせながら像を見上げている桃の肩を抱いて引き寄せた。



「そんな冗談を言っては駄目だよ。私は君がこの時代へ来るまで、ずっと待っていたんだ。空虚な魂を満たしてくれたんだよ。君のためだったら、天下統一も成して見せる。…今日はゆっくり休みなさい。傍に居てあげるから」


「…うん…。謙信さんってほんとに優しいね…。三成さんも…すっごく優しい人だった…。…ぅ、っく…」


「ふふ、でも私以上に優しくて強い男は居ないよ。そろそろそれに気付いてほしいなあ」



桃を膝に乗せて背中を撫でてやっているといつの間にか寝息が聞こえて、涙が頬を伝っていった。


「とてもつらい想いをしているね。君の心を惑わせるのは信長だけではなくて三成も、か。いっそのこと死んでくれていたらよかったね」


桃の魂も、死んでいたかもしれないけれど――
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