優しい手①~戦国:石田三成~【完】
――朝目が覚めると…感じたことのない頭痛が三成を襲い、頭を押さえた。


あまり記憶がなく、いつものように隣に眠っているはずの桃の寝顔を一度見ようと視線を下げた時…


そこに桃の姿はなかった。


――何故か壮絶に布団が乱れている。

寝相が悪い方でもないのに掛け布団は丸まっていて、自分の浴衣もかなりはだけていた。


そして…枕の傍らには、桃の浴衣の帯が転がっていた。


「…!?」


その時点でもう、ひとつのことしか想像できない。


――慌てて部屋を出て桃の姿を捜し歩く。

早朝なため大山の姿もなく、馬屋や台所などをひたすら探した結果…三成は幸村の部屋を訪れた。


「幸村…起きているか?」


――返事はない。


無礼を承知でそっと襖を開けてみると…

そこには、布団の中でしっかりと幸村に抱きしめられたまま眠っている桃の姿が在った。


「…」


何故かものすごく苛立ちが募り、眠っている桃を憎たらしく感じ、

そして何故自分ではなく幸村の部屋で幸村と一緒に眠っているのかを、叩き起こして追求したいという欲求にかられる。


「…」


深呼吸して襖を閉め、自室に戻ると何とか落ち着こうと筆を取り、城攻めについての指南書の続きを書こうと努めたが…無理だった。


「…何故幸村の部屋に?」


何故、桃の帯だけが転がっていたのか?


あの布団の有様は何だったのか?


――考えれば考えるほど混乱してしまい、頭を抱えていた時…


「…三成さん、おはよ」


そっと障子が開き、桃が顔を出した。

だがいつものようにまっすぐこっちを見てもくれず、どこかたどたどしい。


「飲みすぎたか、少々頭が痛くて目が覚めた」


「…そうなんだ。じゃあ昨日のこととかも何も覚えてないんだ?」


やや上目遣いでそう尋ねてきた桃は部屋の中に入ろうとしない。

それも三成の気に触りながら、頷いて手を差し出す。


「ほとんどない。桃、こちらに来い。それに…帯をして寝なかったのか?帯だけが部屋に…」


「覚えてないんならいいの。私、お馬さんたちにご飯あげてくるね!」


優しい手を桃は拒絶した。
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