優しい手①~戦国:石田三成~【完】
何か書き物をしていたのか机の上には筆と紙が置いてあり、おたおたとしながらも幸村は涙目の桃を部屋に通して座らせた。


「その…目に毒過ぎる故どうかこれを…」


差し出された白い羽織りを小さくお礼を言って着ている間…幸村はあることに気がついた。


「桃殿…帯は…」


「……置いて来ちゃった…」


――ただ事ではない。

誰かに襲われたような風に見え、けれどこの三成の屋敷に踏み入ろうとする愚か者が居るはずもなく…

結論に至った。


「…三成殿が…?」


びくっと肩を引き攣らせて顔を上げない桃の様子に、幸村は今にも三成の寝室に踏み込んで、愛用の槍で心臓を突いてやろうかと内心怒りに我を忘れそうになる。


「なんと…!桃殿、痛い所は?!石田三成…見下げ果てた男よ!」


「違うの!三成さんは…酔ってて、きっと誰でも良かったんだよ…。お願い、三成さんを責めないで…」


健気に訴えてくる桃が、やはり男に組み敷かれた恐怖に身体を震わせていたので、自らも恐怖の対象にならないように慎重になりつつも桃の細い肩を労うように叩いた。


「三成殿は潔癖で高潔なる魂を持った武将。何かお悩みでもあったのか…確かに深酒をしておられた。ですが桃殿、それとこれとは別問題!」


「ほんとにいいの!どうせ明日には忘れてるだろうから…私も忘れるから。幸村さん、内緒にしておいてね」


――幸村が普段使っている布団に横になった桃は手を拱いた。


「寝よ。一人じゃ怖いから…一緒に寝て?」


…ああなるほど…。三成殿は毎夜耐えておられたのか…。


――妙に納得しつつもやはり恋の好敵手だと悟り、幸村はがちがちになりながらも桃のために一緒の布団に入った。


「ありがと。…明日からは…一人で寝た方がいいのかな…」


間近で桃がそう呟き、自分の顔がみるみる熱くなるのを感じながら、幸村は素直に思いを口に乗せた。


「も、桃殿…何なら拙者がこれからは三成殿の代わりに…」


「えっほんと!?よかったあ、幸村さんありがとう!」


抱き着いてきた桃にさらに真っ赤になりながらもぎくしゃくと桃の背中に腕を回す。


幸村にビッグチャンスが到来した。
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