優しい手①~戦国:石田三成~【完】
どこか茫洋とした表情で戻って来た三成を、大山は驚きながら声をかけた。


「三成様…いかがされたのか?」


「…桃を…抱いてしまうところだった」


突然の告白に、手にしていた箒を思わず落としてしまうと、この頑固で理性的で冷静な男がやや頬を赤らめたのを見てまたもや大山は絶句してしまう。


「は…、あの、桃をですか?」


「昨晩は酒に酔っていた。だが…それだけではない。俺はきっと元の時代へと桃を戻したくないのだ」


こうして心情を吐露することが滅多にない三成の隣に腰掛けながら大山はうーん、と唸り、頬をかく。


「まあ確かに…桃は可愛らしく元気で明るいですが…」


「先程桃に“俺の妻に”と口をついて言ってしまった。桃は…どのような返答をするだろうか?」


またもや大山の口がぽかーんと開く。

こういう男が一度決めると猪突猛進の如く突進してしまうのだな、と妙に納得しつつも、大山にとっても桃は妹のような存在になってしまっていたので、三成の意思に賛同した。


「三成様…ここからは拙者の考えですので聞き流してくださっても結構ですぞ」


「言ってくれ」


――そう言って2人で向き直った時――


目の前に桃が現れては顔を上げた二人を見ては…いや、三成を見ては顔を赤くしながら小走りに去って行った。


それが妙に女子らしく、桃にも心境の変化があったのだと見て取ると三成も同じような感じになっていて吹き出してまい、三成に睨まれながら続きを口にする、


「桃はあと数年もすれば…いや、色恋に目覚めればどんどん綺麗になっていくことでしょう。現に真田殿はすでに桃の虜となっている様子。あなた様が桃を我が物として抱いてしまえば良いのではないのですか?」


「…急いてはいけない。桃の気持ちも考えてやらねば。俺とて自分に驚いているところだ。あのように年が離れた女子に…」


「いやいや、十で嫁ぐ女子もございますれば。真田殿に奪われる前にここはあなた様が男の何たるかを教えてやるところですぞ」


大山に感化され、三成は少しその気になりつつも桃を探すために立ち上がった。


「桃と会ってくる。…余計な詮索はせぬように」


「御意」


気が晴れた。
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