優しい手①~戦国:石田三成~【完】
大広間に戻ると上座の謙信がむすくれていて、隣に座った桃の手をぎゅっと握って抱き寄せてきた。


「遅かったね。さっきから元親から“桃姫はどこに”って責められっぱなしだったんだけど」


「ごめんなさい、ちょっと遅くなっちゃった…。元親さん、どうぞ」


「ありがたく」


桃が徳利を差し出すとすぐに盃を寄せてきて、また豪快に飲んで桃を驚かせた。


「綺麗な顔してるのにお酒強いんだね」


「ちなみに私も綺麗な顔してて酒にも強いよ」


どうしたことかさっきから謙信が対抗意識を燃やしていて、やけになったのか自分で盃に酒を注いでぐいっと飲んだ。


「あ、そんなに一気に飲むと…」


「心配してくれるの?ああ、少し酔っちゃったかな…もう部屋に戻る?」


――桃を膝に乗せた謙信が顔を寄せて行く光景を、三成と左近が少し離れた場所から見ていた。


「三成様…あれはどうなっているんですか?」


「あれか。あれは…俺の好敵手だ。未だ桃と同じ床で寝ている。…腹立たしいことだ」


三成の女であるはずの桃がべたべたと触られまくっている姿を見て、三成と同じように唇を尖らせた。


「で、あの長宗我部も三成様の好敵手で?」


「わからぬ。が、腹に一物あるとは思うが…」


謙信の膝の上の桃から目を離さない元親。

姫若子という生易しいものではなく、完全に男として桃を欲しているような気がして、それに幸村も気が付いていたのか元親の隣に座ると真っ直ぐ視線を合わせたまま酒を注いだ。


「さあもう一献」


「俺は桃姫からしか…」


「桃姫は我が殿の大切なお方です。誤解されるようなことはなさらぬように」


桃はやや引きつった笑みを浮かべていて、どうやら元親の酒の肴にされていることには気が付いたようで、元親に背を向けて謙信の背中に腕を回した。


「おやおや、もう眠たくなったの?うんうんそうだよね、私も眠たかったからじゃあ部屋に戻ろう」


勝手に話を進めて桃を抱き上げたまま立ち上がると部屋を出て行き、元親が肩で息をついた。


「あれは…完全に懸想しておりますな」


「…やはりそう思うか?」


左近の言葉に三成が渋面を作った。
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