優しい手①~戦国:石田三成~【完】
セーラー服以外は服を持たない桃は、大坂城で茶々から着せてもらった着物もたもたと着ていた。


「…どうやって着るの?」


「桃殿、よろしいですか?」


襖越しに幸村の声が聞こえたので、さも助け舟だと言わんばかりに桃は返事をする。


「幸村さん、入って入って!」


「はっ、失礼致します」


歯切れの良い気持ちいい声と共に襖が開き、笑顔の桃とは対照的に…幸村の顔はみるみる真っ赤になった。


「幸村さん、これ…どうやって着るかわかる?」


「い、い、いえっ、拙者には全く…!」


一生懸命こっちを見ないように天井を見つめながらどもり、桃は結局仕方なくいつもの桃色の浴衣を手早く着て座った。


「お姫様にこんな格好で会えないよ…」


「ですがここは石田邸で、茶々様は来客。気にせずお会いしてはいかがか?」


ようやく幸村が部屋の中に入ってきて、考え込む桃をぽーっとしながら見つめる。


「それに桃殿とて姫と言える程お可愛らしいと何度も申し上げているではないですか」


――照れ屋だが、いつも全力投球でまっすぐな幸村の言葉はくすぐったく、桃は頬をかいた。


「そお?じゃあ桃姫って呼んでいいよ!茶々さんもそう呼んでくれてたし」


にこにこ笑っていると…ふいに幸村が真面目な顔をして膝の上に揃えていた手に手を重ねてきた。


なんだがドキッとしてうろたえながら幸村のまっすぐな瞳とぶつかり合う。


「桃姫…拙者と共に越後へ来る気はこざいませぬか?」


「越後?えーと…上杉謙信さんの?」


「はい。軒猿によれば殿はもうすぐ近くまでおいでとのこと。殿のお許しを得た後拙者と…」


――ごくりと喉を鳴らした幸村がいつになく男らしく、重なった手が熱くなる。


「せ、拙者と…!」


「桃姫…こちらですか?」


襖越しに茶々の声が聞こえて、幸村は慌てて座ったまま部屋の隅に移動すると頭を下げた。


「は、はいっ」


相変わらず憮然とした表情の三成と茶々が入って来て、茶々は微笑みながら桃の手を握った。


「そなたの生い立ちが不憫でならぬ。いつでも尋ねてきなさい」


優しい言葉が胸に染みた。
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