優しい手①~戦国:石田三成~【完】
つい姉と話しているような感覚に陥り、無言のままの三成に怒られるかもしれないと思い、頭を下げた。


「あのっ、お着物とか沢山頂いたみたいで…ありがとうございますっ」


茶々からは良い香りがして、ほんわかしながら真っ白な手を握り返すと、今度は頭を撫でられた。


「そなたはたいそうお転婆な様子。白粉や紅、付け髪も持ってきたのでたまには化粧でもして三成を驚かせてやりなさい」


…まだ黙ったままだ。

それが気になったが、部屋の隅で顔を上げない幸村に茶々が気付いた。


「そなたは…?」


「その者は私の友人です。名乗る程の者ではございません」


――きっぱりと言った三成に幸村は苦笑しながらも、それは三成なりの優しさだとわかっていたので、はきはきと賛辞を述べた。


「よもや天下一の美貌と謳われる茶々様とお会いできようとは…恐悦至極にございまする」


「まあ…嬉しいことを言ってくれる。そなたもたいそう綺麗な顔立ちじゃ。桃姫とは親しいのですか?」


自分より遥かに何度も桃をちらちら見ている幸村に気付いていた茶々がそう茶化すと、その快活な顔は一気に赤くなった。


「はっ、桃姫は…拙者の大切な女子でございますれば」


「やだなに言ってんの幸村さんったらあ!」


“大切な女子”と言われ、照れていると、三成が機敏に立ち上がり、庭に通じる障子を開けた。


「茶々殿、そろそろお城へお戻りを。私も後ほど馳せ参じます故」


何の感慨も込めずに素っ気ない態度を取る三成に…桃がついに業を煮やした。


「ちょっと三成さんっ、こっち来て!」


三成の手を引っ張り、書斎へと移動すると、桃は唇を尖らせて猛抗議した。


「なんで茶々さんに冷たくするの?かわいそうじゃない!」


「なに?あれがいつもの俺だ。茶々殿は我が主君のご側室。馴れ合うわけにはいかん」


史実から、三成の性格は歯に恩着せぬ物言いで有名だったことから、反論できずにいると…三成が指に指を絡めて握り締めた。


「や…、な、なに?」


「先程は幸村の言葉に照れていたな。…俺も言ってやろうか?」


やけに艶めかしいその声と仕種から、また桃は猛ダッシュで逃げ出した。
< 57 / 671 >

この作品をシェア

pagetop