優しい手①~戦国:石田三成~【完】
とうとうこの瞬間が来てしまった――


この白い光が収束してしまえば…戻れなくなるかもしれない。

だが両親はもちろん現代に帰る気でいて喜んでいる…

だけど私は?

私は…現代に戻って…三成さんと謙信さんのことを忘れられずにいられる?

思い出に…できる?


「桃…どうするの?一緒に帰るのね?それでいいのね?」


「お母さん…でも私…お腹に赤ちゃんが…!」


まだ本当に妊娠しているかどうかもわからなかったけれど、現代で育ててゆける自信がない。

三成と謙信と離れて…生きてゆく自信がない。


そして謙信と三成は引き留めもせずに小さく微笑み、ようやく口を開いた。



「…戻るんだね。うん、君がそう決めたのなら…そうしよう。桃…元気で。いつまでも、愛しているよ」


「謙信さん…!」


「俺のことをなるべく長く忘れないでいてくれ。…束の間、極楽を見た。いつか再び…会える日を信じている」


「三成さん…やだ、謙信さん…!」



――このチャンスを失えば、もう2度と彼らとは会えなくなるだろう。

そして大地に膝をつき、歯を食いしばっている幸村が皆の前で想いを口にした。


「桃姫…!お慕いしておりました!これからもずっと、お慕いしております!どうかお元気で!健やかな御子がお生まれになることをお祈り申し上げております!」


「幸村さん…私…幸村さん…」


「桃、俺はとうとうそなたを手に入れることはできなかったが…この男に必ず天下を獲らせ、太平の世を導く歯車となってやる。いつか俺の子孫とそなたの腹の子が出会える日を心待ちにしているぞ」


「政宗さん…!」


「桃…本当にいいの?後悔したまま戻れるの?戻るって決めたのね?」


母に問われ、桃は腹を押さえながら何度も首を振った。


これまでずっと悩んできたけれど…


最初から答えは決まっていたように思えた。


…諦めたくない。

せっかく出会えた愛しい人たちと、離れたくない。



「謙信さん…!三成さん!」



桃は白い光から抜け出て、伸びた三成と謙信の手を取った。
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