優しい手①~戦国:石田三成~【完】
清野は無表情で腰をかがめて信長を覗き込んでいる謙信の背後に立った。


…桃の両親を救うために潜伏し、信長の寵愛を勝ち取り、野心を滅茶苦茶にした張本人だ。

だが怒鳴り散らすかと思った信長は、じっと清野を見つめると…笑みを浮かべた。


「儂を裏切りおって…。弄んだつもりが本気になったのは儂だけだったか」


「…全ては謙信様と桃姫のため」


「そうか…。いっときではあったが、面白かったぞ。儂を本気にさせた女子は…そなた…だけ…」


――事切れた。

目を見開いたまま死の淵に沈み、腰を上げた謙信の背中にどんとぶつかって抱き着いて来たのは、桃だった。


「謙信さん…!」


「終わったよ。意外と呆気なかったね、やっぱり病には勝てなかったんだろうね。ま、あの信玄もそうだったんだから、この男が信玄を超えられるはずもないか」


唯一好敵手と認めていた信玄を誉め、腹に回っていた桃の手をぽんぽんと叩くと手を繋いで、まだ歩き続けている信長の身体の前に回り込み、懐から現代に戻るための小さな石を取り出した。


「それは…」


「政宗も同じ石を持っている。そして私は君の父御の指輪を持っている。桃…揃ったんだよ。君が現代へ戻るための条件が」


「謙信さん…どうしよう、私…まだ決められなくって…」


現代では大好きな姉たちが待っている。

そしてずっとずっと会いたかった両親とも再会できたのに…


「桃…」


「…お父さん…お母さん…」


後列から抜け出てきた茂とゆかりが桃に駆け寄り、謙信は沈黙を守ったまま懐から茂の指輪を取り出した。


「これを返そう。政宗」


「わかっている。さあ、これを」


欠けた石と指輪が揃い、桃と茂とゆかりが揃った時――石が光り出した。


「お、お父さん…これって…」


「…!戻れるかもしれない…!ゆかり、石を嵌めてみよう」


「ええ…!」


指輪に欠けた石を嵌めるとさらに真っ白な光が爆発し、桃たちを包み込んだ。


「戻れる…戻れるぞ…!」


――桃はただ動揺し、黙っている三成と謙信から目を離せずにいた。
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