優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃にはこの時代の情勢には興味がない。

オーパーツが紛れ込んだために多少おかしなことが起こっていても、それが見つかれば…きっと元通りになるはずなのだから。


第一…これ以上深入りしてしまうと…


「桃姫、そ…そろそろお休みになられますか?」


「え?」


背を正して赤くなる幸村の顔を見つめ続けると、三成が横目で牽制を図ってきたのを胸を張って跳ねつける。


「今宵より拙者と…その…共にお休みになられる約束を…」


そんな約束を交わしたことを完璧に忘れていた桃は左横の三成をはたと見た。


盃を傾けながら会話に入ってこないので、三成にまた恥ずかしいことをされるのではないかという疑念があったので、

膝の上で拳が白くなるまで握り締めている幸村に向き直ると、口を開きかけた時――


「幸村の部屋か…。桃、あそこは……いや、何でもない」


「…へっ!?」


思い切り嫌な想像力が膨らんだ桃は、三成の細いががっしりとした肩をがくがくと揺すった。


「なに?なんなの!?ま、まさか…」


「いや、不安にさせるつもりはなかったのだが…あそこは…」


上半身を桃の方に傾けて、幸村に聞こえないように耳打ちしてきた。


「…出るのだ、あれが」


「!!お、おおおおば…」


真っ青になった桃の顔を幸村が覗き込む。


「桃姫?」


「幸村さんごめん!やっぱ…いつも通り三成さんと同じ部屋で寝るね!」


――がっくりと肩を落としそうになるのを堪えながら、幸村は快活な笑顔を顔に張り付けた。


「いえ、お気になさらず。三成殿、桃姫の御身…お願いいたしましたぞ」


「ふん、そなたに言われるまでもない。今宵はもう下がれ」


「はい、では桃姫…お休みなさいませ」


礼儀正しく頭を下げて部屋を後にした幸村を見ていると盃を膳に置く音がして、改めて三成と向き直る。


「そんなに心配か?もうあんな真似はせぬから安心しろ」


「…ほんと?」


それでも訝しむ桃を置いて三成が立ち上がる。


「どこ行くの!?」


「風呂だ。…共に入るか?」


妖艶な笑みに、桃は真っ赤になった。
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