優しい手①~戦国:石田三成~【完】
今までまるで女としての自覚がなく男勝りで、姉たちから注意され続けてきたのだが…


三成や謙信、幸村らから女扱いされるようになって、ようやく自覚が芽生えた桃が、自身の疼きと対峙する。


「ヤバいよこれ…。今何かされたら絶対ヤバい…!」


「何がだ?」


――一人で葛藤していると、背後からかかった声に三成の刀を手にしながら振り返る。


「それは役に立ったか?」


三成だった。


相変わらずあまり表情が動かない中目元が和らいでいるのがわかり、桃はほっと息をついた。


「三成さんお帰りなさい。これ…重たいんだね、持ってるのでやっとだよ」


ずしりと重く、人の血をも恐らく吸ったことがあるであろう刀を差し出すと、いとも軽そうにして受け取ると…


三成は桃の右の首筋についているものに目ざとく気がついて…瞳を細めながら桃の前に座った。


「…謙信と会ったな?」


「え…、なんで…わかるの…」


謙信のせせら笑う声が聞こえたような気がして、首筋につけられた桃色の痕に指で触れた。


「…吸われたんだな?」


「…っ!あのね、病気だっていうから会いに行ったら…」


――様子からして最後までには至っていないことに安堵しつつも、ものすごい怒りが沸々と込み上げてくる。


「全く小賢しい連中だ。…で、他に何をされた?」


…よもやそれを口にして言えるはずもなく口ごもった桃が思わず謙信に触れられた胸を庇うと、


とうとうキレた三成が刀を手に立ち上がった。


「駄目だよ三成さん!歴史が変わっちゃう!」


「俺にも許せぬことがある!」


「大丈夫だから!…途中で止めてくれたし…」


途中で――


――またもや激昂しそうになる心を捩伏せながら荒々しくまた座り、大きく息を吐く。


「…刀を持ち歩けと行ったろう?」


「こんな重たいの持ち歩けないよ…。私は平気だから謙信さんと喧嘩しないでね」


腹立たしく思いながらも三成は桃を抱きしめた。


「どうしてほしい?そなたを安心させてやりたい」


固い身体の感触に桃は背中に腕を回した。


「…このままで居て」
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