優しい手①~戦国:石田三成~【完】
兼続が用意していた盥に手ぬぐいを浸して絞り、背中を向けている謙信の肌を優しく拭いた。


「ああ…気持ちいいよ。姫、ありがとう」


「あ、ううん…百戦錬磨の上杉謙信でも病気には勝てないもんね」


――突然倒れて逝った男…


「ああそうだったね、姫は私の最期を知っているんだった」


手が止まってしまうと、謙信が桃と向き合う。


露わになった均整の取れた上半身に、男に免疫のない桃はまたもや釘付けになり、手ぬぐいをぽろっと落とした。


「私は好きに生きていたと思うから悔いは無かったと思う」


――気が付けば桃は謙信の腕に抱き寄せられ、膝の上に座っていた。


中性的な美しさを持つ謙信に、性懲りもなくドキドキしてしまってもがけど力では到底敵わず、桃の手を取り、胸に押し付けた。


「謙信さん…っ」


「戦でもこうは胸は高まらないよ。姫は私の天女だ、私の傍に居ておくれ」


…三成の不器用な笑顔が頭に浮かんだ。

――否定にかかろうとする桃の行動を先読みした謙信は膝下に手を入れてそのまま桃を押し倒すと、迷わずその半開きになった唇を奪った。


「ん…っ!」


「…経験があるようだね。三成から?激しいの?それともこんな感じ?」


強引に押し倒したくせに、唇に唇を優しく押し付けては桃の反応を見てまた繰り返す。


…三成は冷静に見えていて、キスは毎回激しかった。


だから謙信の甘くとろけるようなキスは…逆に桃の拒絶する心を奪って行く。


「私は優しいだけではないよ」


「え…、あ、や…っ!」


――三成をも凌ぐ激しいキスが桃を襲った。


頬を包み込み、舌を強く吸われたり絡められたりを繰り返され、胸元から謙信の手が滑り込んできた。


「や…、やっ!」


「姫、三成に決めるのはまだ早い。姫を愛している男は三成以外にも居ることを忘れないで」


時に優しく、時に激しく桃を襲っては力の萎えていく身体から謙信は離れた。


引き際の良すぎるその所作に桃は翻弄されまくりながら荒い息を吐く。


「三成には秘密だよ。水、美味しかった。…姫の唇もね」


悪戯っ子のように笑った。
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