雨と傘と
春にいは、手から顔を上げると、私を真っ直ぐに見て、




「幸葉、好きだ。ずっと好きだった。」




はっきりとした声が響いた。



心臓が、動きを止めた。時間が止まった。




春にいの言葉が心に染みこみ、脳が理解する。心臓が激しく血液を送り出す。一瞬で景色が色を取り戻し、私は息を吸い込んだ。


春にいが、私を好きでいてくれる。


見つめる春にいの瞳に吸い込まれるように、溢れ出す、私の想い。


「私も…春にいが、好き。」


小さな小さな声が出た。



その瞬間に私はひんやりとした学生服に包まれた。ぎゅっと。春にいの胸に抱きしめられて、その匂いに包まれた。


「今日から、幸葉は俺の彼女だ。」


彼は耳元でそう囁くと、私の髪に顔を埋めた。くすぐったくて、恥ずかしくて、愛おしくて。幸せすぎて倒れそうだけど、春にいが、きつく抱きしめてくれるから、これが現実だって本当に実感できた。


初恋が実ったみたい。
幼馴染の春にいは、今日から私の彼氏になりました。



「寒いから、帰ろっか。」


そう言って私を立たせ、自分の黒いマフラーをぐるぐる巻きつける。ありがと、ってお礼を言えば、頭をよしよしされる。私は、ほほを赤く染めながら、春にいと家に帰った。



だけど私は幸せすぎて、全然何も見えてはいなかったんだ。恋は盲目と言うけれど、初めて恋をした私は余裕が無さ過ぎて、目を閉じて歩いているようなものだったんだ。春にいの気持ちも、朔ちゃんの気持ちも、そして自分の気持ちさえ理解していなかったんだから。






この時の幸せは、みんなを苦しめる種を植えたんだ。



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