雨と傘と
「朔ちゃん、おはよう。」

それは繰り返される、朝のあいさつ。毎日彼女はこちらを振り返って笑ってくれる。

「おはよ。」

挨拶を返すと、彼女は苦しそうに笑ってくれた。顔色が悪い…俺と同じように眠れなかったんだろう。そう思うと、彼女と共有する胸の痛みさえも嬉しくなる。俺が彼女を苦しめている…その事実で、彼女の心を支配する自分を実感する。


それは酷く歪んだ愛だった。



「幸葉…顔色悪い。」

「朔ちゃんも、だよ?」

そう言い合って、笑うんだ。そして、今日も時間は流れていく。

幸葉も俺も、今の状況をどうにかする術なんて知らなかった。幸葉が兄貴と別れても、元のような仲良し兄妹には戻れないって分かりきっていた。あまりにも想いが強くて、抑えられないからだ。

三人で幸せになれる道なんか、いくら考えたって、ない。

三人がお互いを大切に思えば思うほど、傷ついていく。苦しんでいく。








珍しく、昼休みに兄貴と景さんは教室に来なかった。
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