雨と傘と
「失礼します。」

保健室は、暖かかった。

「先生、次の時間、お休みしたいんです。」

泣いている私を抱える小峰を見て、養護の先生は微笑む。

「いいわよ。何年何組?ここに名前も書いて。担任の先生には私が言っておくから。」

「ありがとうございます。私たち、少し話がしたいんです。」

「じゃあ、そっちを使って。カーテンを引いてあげるから。このことは誰にも話さないから、安心していいのよ。もし、何かあれば声を掛けてね。少しは力になれるかもしれないから。」


思春期の私たちを見守るこの先生は、生徒のことをよく分かっていてとても人気がある。私と小峰に何も聞かずに、保健室を快く貸してくれた。




「岬…話せる?」

小峰は心配そうにこちらを覗きこむ。
涙は自然と流れて落ちる。ハンカチを握りしめながら、嗚咽を飲み込む。

どう思われようと、私は事実を話すことにした。もうすべてを話したかった。どんなに醜い心を晒そうとも。叫びたかった。自分の気持ちを。



「私ね…朔ちゃんが、好きなの。春にいも好きで、朔ちゃんも好きなの。どうしても、好きなの。」



小峰は、少し安心したように微笑む。

「うん。なんとなく、そうかなって思ってたよ。」

勘の鋭い彼女は、やっぱり気付いていたけど、私が言うまで待っていてくれたんだ。そのことにさらに目頭が熱くなる。

「お…おかしい、よね。自分でも、どうかしてるって分かってるけど…どうしようもなくて。」

「…おかしく、ないと思う。岬は、生まれてからずっとあの二人と過ごしてきたんでしょ?近くにあんな魅力的な二人がいたら、好きになるのは当たり前だと思う。まして、二人からあんなに愛されていたら…。」

「二人が、私を好きって知ってたの?」

「誰もが知ってると思う。あんたを見る二人は甘甘だよ。私がもしどちらかを好きになっても、諦めるしかない。望みがまったくないもん。それくらい、二人はあんたしか見てないのよ。」

周りの目から見ても明らかなんて、よっぽどのこと。

「こんなにも愛されてるのに、私は…」

「岬も二人を十分愛してると思うよ。それは伝わってると思う。」

「それが、二人を苦しめてるの。伝われば伝わるほどに、傷つけて苦しめて…私、どうしたらいいか、分からない。」

「岬も、痛いんでしょ?」

「私は、別にいいの。こんなの、私が悪い。」


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