雨と傘と
「幸葉。少し、話さないか。」

次の日の昼休み、俺は幸葉を呼んだ。教室を出て、渡り廊下を歩く。隣を歩くのは、ずいぶん久しぶりな気がする。

その時、聞きなれた声が聞こえた。

「景。」

俺と幸葉は足を止めた。

「ハル―、どうしたー?今日もゆきちゃんのとこ、行かないのー?」

姿は見えないから、渡り廊下の外に座ってるいるらしい。開いた窓から、五月の爽やかな空が見えた。

「…しばらく、行かない…行けない、かな。」

「ふーん。珍しく弱気だね。」

「俺だって、恐いものはあるさ。」

「何が恐い?」

「…知るのが、恐い。幸葉と朔人に、何かあったかを。」

「逃げてるなんて、らしくないな。けど、たぶん、二人の間に何かがあったのは間違いないと思うけど?」

「何で、そう思う?」

「俺がサクをけしかけたから☆」

「やっぱりお前か…朔人に何を言ったんだ。あいつは、幸葉の気持ちに気付いてなかったはずだけど。」

「簡単なことだよ。ユキちゃんをちゃんと見てみなって言っただけ。」

「…充分だろ。朔人は鈍くないし。特に幸葉のことは、昔からよく気が付く。」

「ふふ。でも、こんなに早く行動を起こすなんて思わなかったよー。普段、穏やかで周りに気を遣って、自分のことを後回しにするような子だから。」

「まだまだ、朔人を分かってないな。あいつは、いざって時の決断力と行動力は俺よりあるよ。感情のままに動く、熱い部分を持ってる。普段は表に出さないけどさ。」

「何ー?弟の自慢?うざいしー。」

「いい男だろ。」

「ハルもいい男だよー!」

「きもいから止めろ。」


二人の会話に、俺と幸葉は身体が固まったように、その場に立ち尽くした。
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