契約恋愛~思い出に溺れて~


「彼女が電話で話した人。横山紗彩さん。
娘さんの紗優ちゃんは今日来てないけど、今1年生」

「英治は独身主義なのかと思ってたよ」

「俺も。でも紗彩とは結婚したいから。とりあえず報告はしておこうと思って」

「ああ、ありがとう。おめでとう。紗彩さん、よろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ。ふつつか者ですが」


私が慌てて頭を下げると、英治くんがムキになって言う。


「ふつつかじゃないよ」

「じゃなくてもこういうときはそう言うのよ」

「型どおりの言葉を言わなくたっていいだろう」


目の前で口喧嘩を始める私たちを、お父さんはクスクス笑いながら見ていた。
そして、言い合いがおさまった頃ポツリと口を開く。


「結婚式はどうするんだ?」

「あー。どうしようか。紗彩、最初の時は?」

「え? あ、あの。……結婚式はしてないのよ」


私の言葉に、英治くんが驚いたように身を乗り出す。


< 433 / 544 >

この作品をシェア

pagetop