契約恋愛~思い出に溺れて~

流れる月日


 それからの英治くんの動きは速い。

翌週には、私の両親に挨拶に来た。

以前の事もあって、両親は英治くんには好感を持っている。
加えて、近くに暮らそうと思っている、という言葉で思ったよりも簡単に了承してくれた。


 その翌日には彼の父親を訪ねた。

今回は初めてという事もあり、私と英治くんだけで、紗優は母とお留守番だ。

英治くんが一人立ちしてから再婚したという、50代くらいの女性がお茶をいれてくれた。

女性と英治くんはどこか他人行儀で、彼女は彼をちらりと見ると、頭を下げてリビングを出て行く。

ソファにゆったりと腰かける彼のお父さんは、肩幅があり、英治くんと比べれば少しふっくらとしていた。

髪には半分ほど白髪が交じり、目尻によった皺のせいか穏やかな印象を受けた。


「ひさしぶりだな」

「ああ」


かわされる会話は、どこかそっけない。

そういえば、彼とお父さんは、基本的に互いに干渉し合わない主義だと前に聞いた事がある。


< 432 / 544 >

この作品をシェア

pagetop