契約恋愛~思い出に溺れて~
顔をあげると、目配せをしているオーナーの姿が見える。
その視線の先には、彼の恋人のピアニスト。
彼女は頷くと、黒と白の鍵盤に向かい合った。
その細い指から、流れるように旋律が紡がれる。
精巧な調べに、一瞬どのテーブルも会話が止まる。
ここのピアノは、いつも私を慰めてくれた。
ユウと出会った時も、
ユウを失った時も。
達雄と出会った時も。
英治くんに諌められた時も。
演奏が終わると、拍手が波のように湧き上がる。
もうユウの残像にはとらわれない。
これは、祝福の拍手だ。
「頑張って、達雄」
「ああ」
少し吹っ切れたような彼は、立ちあがって会社の仲間のところへと向かった。
カウンターに残された私と英治くんは、席を一つ詰めて隣同士になる。