契約恋愛~思い出に溺れて~
だってこの後、
彼は海に入り、波に乗ろうとして。
――ダメ。行かないで。
彼の背中が遠ざかる。
やがて、彼の番号が呼ばれ係りの人と話を始める。
私の頭の中に、どんどん波の音が広がっていく。
このまま見ていては、
一番悲しい記憶を呼びさましてしまう。
それでも、彼の背中から目を離せないのは何故だろう。
見失いたくない。
だって。
少しでもいいから
動いている彼をこの目に焼き付けたい。
彼がサーフボードにのり、海へ入る。
この日の波は少し高い。
それでも、大会を行うには支障のない程度だったのに。
立ち上がろうとした彼は、そこでバランスを崩し、波の高いところで体ごと崩れ落ちる。
波の音だけが、やたらに甲高く頭に残る。
――やめて、やめて、やめて。
夢から醒めさせて!