過ぎ去った季節の香り
過ぎ去った季節の香り
「宝物」と呼べるような思い出がある

私が望む形ではかなわなかったけれど

想いが私を突き動かし
その手で
その唇で
全身全霊をかけて

見つめあうその一瞬に永遠を感じていた
時間も距離も越えられるのだと信じていた

恋と呼ぶにはあまりにも短く
愛と呼ぶにはあまりも幼く
あまりにも透明で
あまりにも真っ直ぐで


形作ることの無い未来に思いをはせ
やわらかくて、やさしい時間につつまれたまま
私達は傷つけあうことすらできないままに離れた


最後に抱きしめられた瞬間
別れの瞬間に
初めて・・・本当に初めて
心が裂かれるほどの悲しみを知った


その瞬間がきっと私の初恋だったんだと思う

あの人とともに歩いた街は
きっと今が一番美しい季節だ

木々は短い夏を迎えようと枝葉を広げ
あの公園の芝はやわらかく茂っているだろう
太陽は毎日すこしづつその輝きを増し
息づく全ての生命を照らす
あたたまった空気は歴史の深い街の隅々にいきわたり
流れる運河の水に人々の息吹が映る


こんなにも遠く離れたこの場所で
一年に一度、この時期だけあの街と同じ風が吹く

傷つけあうこともできず
おぼえたてのつたない愛を語った日々
つながれていた手は今ではもう幻だけれど
描いた未来が訪れることはなかったけれど


つながる空の先
確かに私達はあの場所に共に在った

あの頃の私が
私に残してくれた「宝物」は
心の一番深いところに大切にしまってある
季節がめぐるたびに、今も鮮やかによみがえる全ての思い出は
決して苦しくも無く、悲しくもなく、辛くもなく

懐かしく
美しく

ただ、やさしく・・・

私の人生を豊かにしてくれる

風が吹く・・・
今夜の風は過ぎ去った季節の香りをのせて


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