キスはおとなの現実の【完】
だが、そんなおとぎ話のような人生は現実世界じゃじっさい起きない。

わたしの人生は、それまでとなにひとつ変わらず、だがじっさいはなにもかもががらりと変わり、終わることなく続いていった。

しあわせな新婚家庭のなかに混じった異物という感覚をわたしの心に植えつけて。

思春期のまっただなかにいる弟は、これから進学して、成長するたび時間をかけて、じょじょに家庭になじむのだろう。

もしもそれができないときは、べつの生きかたを彼はきっと考える。

だが人格形成の段階も終わり、高校卒業を一年後にひかえたわたしはそうはいかなかった。

年長者のわたしは、はやくおとなにならなきゃいけない。

このしあわせな家庭のお荷物にならないように。

そんなふうに強く思った。

だからわたしは進路に就職を選び、高校卒業後すぐに家をでた。
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