キスはおとなの現実の【完】
「こんちはー。あきびん回収にきましたー」

厨房に対して背中をむけていたわたしは、思わずその声に反応してしまう。
ジョッキに口づけしながら、声のほうへと首をめぐらす。

ちょうど業者さんがのれんをくぐって、厨房にはいっていくところだった。

「はあ」

わたしはため息をついてしまう。

のみ会の場で外部の声がきこえてくるなんて、ぜんぜんたのしいお酒がのめていない証拠だ。

座敷にいるほかのメンツは業者の声がまったく耳にとどいていないようす。
おのおのが話しに夢中で、笑ったり騒いだりしている。

わたしはそんなみんなから視線をそらし、とくに意味もなく厨房を凝視してしまう。

なんというか、現実逃避。
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