[短編]One-Way Ticket
那智と二人でバーに入った
アジアンモダンな店内には古い洋楽がかかっている


私たちの共通の友達・仁がやっているお店。

「仁!」

私の声に
カウンター中にいた体育会系の男が振り返った。


「マスターと呼べ。マスターと。」


勿体ぶって仁は言う。私は笑って流してカウンターに座る。


「那智、お前帰り車じゃねーの?」


「ああ。だけど少しだけ飲んで行く。」


二人の会話を横目に私はお通しに橋を付けた。


仁は大学卒業と同時にこのバーを開いた。


今じゃそこそこの人気で私と那智はここの常連。


水曜日の閉めはこの店にくるのが当たり前になっていた。


「ほれ千香、お前の好きなマスカット。」


エメラルドの宝石を集めたようなマスカットがテーブルに置かれる。

私はそれにくぎづけになった。


「すごいねぇ!どうしたの?」


「親戚からもらったんだよ。水曜日だしお前達がくると思って取っておいたんだ。」


「仁って最高!いただきますっ。」


私はマスカットに夢中。


「千香はマスカットが好きなんだ?」


「そうだよ。」


「なんだ、まだしらなかったのか那智?」


「ああ。うまいか千香?」


私は首を縦に降った。


「那智もたべる?」


「いや、千香が全部食べていいよ。」


那智はジントニックを飲んで席を立った。


「なぁ、千香。お前って那智のことやっぱり好きなのか?」


マスカットの汁が唇から落ちた。


「…いつから気付いていたの?」


「2回目にお前達がうちに来た時に、なんとなく。」


「……見込みないかなぁ?」

「いや、それが…」


仁が言いかけた時に那智が戻って来た。


「…つうわけで今度はライチを用意しておくよ。」


仁の言葉に軽く頷き那智を見る。


気付いていない。


ホッと胸を撫でおろした。
< 7 / 20 >

この作品をシェア

pagetop