四竜帝の大陸【青の大陸編】

34(おまけの小話あり)

旦那の【気】に押し付けられ、身体が動かない。
その場にいる者全てがそうだった。

幼竜達はすでに意識が無く、テーブルに倒れこんでいる。 
支店長が姫さんに触れた意図は想像できる。
だが、ちょっとやりすぎだ。

「……ダ、ダルフェッ」
「無理して動くんなない、ハニー!」
 
旦那にとって姫さんは<聖域>だ。
大事で大切で。
傷つけるのを恐れるあまり、手を出せないでいる。
その姫さんに他の雄が触れたんだ。
そりゃ、怒るに決まってる。
竜族だったら当然だ。
でも。
でもなぁ、旦那。
連帯責任で幼竜どころか国まで潰すって?
どんだけでかい連帯なんだよ!?
使い方、間違ってます。

「……くっ。姫さんっ」

旦那を抑えられるのは、姫さんなんだが。
なんとか眼をこらして姫さんの様子を確認すると……。

泣いてた。

<白金の悪魔>の笑顔を見て、ぽろぽろ……小さな子供のように。

多くの美姫を虜にし、堕とした悪魔の微笑みを見て。

悲しそうに涙を流し、悔しそうに唇を噛んでいた。

「そっか、そうだよ……なぁ」

あんたの『可愛いハクちゃん』に、あんな笑顔は似合わないよな。

たとえどんなに冷たい無表情な顔だって。
姫さんを見る時の眼は、いつだって柔らかかった。
金の眼はずっとずっと1日中、姫さんに囁いてたもんな。

大事だ。
好きだ。
大切だ。
愛してる。

なあ、姫さん。
つがい名は人前では使わないんだぜ、普通。

特別な名前だから、隠しておくもんだ。
愛しい相手と二人で過ごす時にしか使わない。
二人だけの睦言。
なのに旦那は、姫さんとつがい名しか使わない。
つまり。

旦那にとって、存在してるのは姫さんだけなんだよ。
俺もハニーも、陛下も誰も彼も。
旦那にとってはそこらの草や虫と同じなんだ。
旦那には姫さんしか、存在してないんだ。
 
姫さん。
頑張れ!
あんたの可愛いハクちゃんを取り戻せ!


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