四竜帝の大陸【青の大陸編】
身体中の骨が折れてるんだぞ!?
内臓だって損傷していた。。
酷い出血量だった。
生きてたのが奇跡なほどの状態だったんだぞ!?

「どこぉ? ハクちゃ……ん、ハクちゃん」

俺の耳がおかしいのか? 
旦那が浴室へすっ飛んで行ったって事は、同じものが聞こえてるってことだ。
つまり、俺の耳が正常ってことだよな?

「……」

驚愕のあまり、俺は動くことが出来ずにいた。
有り得ない。
姫さんは人間だ。
こんな……。
溶液独特の重たい水音が、開けられた扉から床を這って俺の耳へと絡みつく。 

「……んな、嘘だろ……う?」

俺が旦那よりかなり遅れて浴室に行き、眼にしたものは。
赤い溶液に濡れたシーツごと、旦那に抱きしめられた姫さんで。
旦那の肩にのった、見慣れた顔。
俺を見て、はにかんで言った。

「あれぇ、ダルフェ。あ、おはよ……うございます」

金の眼に。
パカーンと口を開けた俺の間抜け顔が映っていた。



支店長の連れてきた医者が診察を終え、2階の事務所に降りてきた。
かなり高齢の女医はこの町で1番の名医と評判なのだという。
扉1つ挟んだ向こうに旦那の気配を感じながら姫さんを診察するなんて、賞賛に値する肝っ玉だ。

「人間の娘が竜族に乱暴され瀕死の状態だと仰ってましたが。彼女ははっきりと、否定しましたよ? ……怪我1つしていませんでした。支店長殿が嘘をつくとは思えません。長い付き合いですしね。見つけた当初はそういった状態だとして、【繭】の溶液に入れただけで回復するなんて有り得ません。かなり小型の種のようですが貴方達と同じ竜族ではないのですか? ……それに彼女の夫だという竜族。あの御方は……」

支店長は老女医の震える手に金貨の詰まった袋を持たせ、言った。

「今日の事はお忘れ下さい。貴女自身の為に」
「……そうします。孫の結婚式までは生きてたい」

早足で支店を去った医者の言ったことに、俺は頭を抱えた。
これはいったい、どういうことなんだ!?
 
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