四竜帝の大陸【青の大陸編】
「ヴェル……お前、まさか」
「我はずっとお前ら竜族の願い通りに行動し、人間共の望むように振舞ってきた。我の自我はあって無いような希薄なものだったからな。だが……りこに関する事で我に口出しするな。あれは我の宝。我の全て。我の怒りを買い、いずれくる竜の滅びを早めたくはなかろう? 四竜帝よ、<青>の竜よ」
「……おちびのとこにじじいを運ぶ前に、もう1つ話がある」

鉄鍋が浮遊するのを感じた。
<青>が鉄鍋の蓋についた取っ手を掴んで飛んだので、我は蓋が取れぬように爪を内側からさらに食い込ませた。
よりしっかりと食い込ませるために爪を伸ばしたら、突き抜けて<青>の鱗に刺さったらしく<青>が悲鳴をあげた。

「ぎゃあぁあ! さ、刺さったぞ! 痛い、痛いってぇじじい!」

惰弱な。
竜帝のくせに。
我は鍋本体が落下しないように足の爪を側面にも突き立てた。
 
「で。<青>よ、我に話とは?」

「腹立つじじいだな、ほんと。おちびの前じゃかわい子ぶりやがって……うぎゃーっつ! おい、爪が俺様の指を貫通したぞ!」
「で。話は?」
「ううっ。バイロイトに皇室から文書が来た。押収した非合法の異界の物品の確認をして欲しいってな。じじいの頭の【網】にひっかからないようなモノだったから残ってるわけだろ? 無視してもいいかと思ってたんだけどな。文書寄越した第二皇女って、その、あれだろ?」
「あれ……とは?」

メリルーシェの第二皇女か。
それが“あれ”と言われても、<青>が何を言いたいのか我には全く分からん。

「てめぇの愛人連中の1人じゃねえか! セイフォンでおちびに会うまで、あのデカ乳のとこで爛れた生活してただろうがっ。あの女、じじいにかなり執着してたからな。文書を無視したら支店に乗り込んでくんじゃねぇ? まずいだろ、さすがによ」

爛れた生活?
はて?
これもまた、意味不明なのだ。
我の肌は爛れるほど弱くないのでな。

「まずい? 何故だ? それに愛人などいない。あれらが勝手に寄ってきただけだ」

我から女を求めた事など無い。
あれらが我を求めるだけだ。

「竜帝たる俺様が、愛人の定義をじじいに講釈するなんて嫌だ。だからそれは後回しだ! とにかく、おちびに知られたら困るだろうが!」
「何故だ? どこら辺が困るのだ?」
「だあぁぁあああ! これだからじじいは駄目なんだよ、最低男めっ」

考えても全く分からん我に、<青>が怒鳴った。

「じじいの過去の女って存在は、おちびの心を傷つける……多分、嫌な思いをさせるし、きっと悲しませる。じじいの腐った女遍歴がばれたら大変だ。おちびみてぇな、すれてないお嬢ちゃんには嫌悪の対象になりそうだしな。おちびにじじいを嫌わせるわけにはいかんだろ? それに大抵の男ってのは過去の女のことは隠すもんだ。特に比較なんか厳禁だぜ?」

ん?
過去の女?


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